2012年11月14日 先週のレクチャーコンサートの概要

 11月6日(火)秋田のアトリオン音楽ホールにて、昨年に引き続いて2回目の青少年のためのレクチャーコンサートを、日本音楽財団とアトリオンホールのスポンサーで行いました。
 昨年は「音楽における愛のかたち」というタイトルで、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ(母への愛)やベートーヴェンのスプリング・ソナタ(自然への 愛)、バッハのシャコンヌ(妻への愛)などを含むプログラムでしたが、今年は「大作曲家たちの友情と反目」というタイトルで、以下のようなプログラムで行 いました。参加した高校生に配布するライヴCDのブックレット用の解説文を執筆いたしましたので、転載いたします。
 
青少年のためのレクチャーコンサート
「大作曲家たちの友情と反目」

 1. 歴史的な三角関係
   ロベルト・シューマン:"F.A.E."ソナタから第2楽章「間奏曲」
   ブラームス:"F.A.E."ソナタから第3楽章「スケルツォ」
   クララ・シューマン:3つのロマンスOp.22から第3番
 2. ヴァイオリンを弾く悪魔とピアノの巨人--世紀の2大ヴィルトゥオーゾ
   パガニーニ:無伴奏ヴァイオリンのための24のカプリスから第20番
   リスト編曲/シューマン:献呈
 3. ラヴェルとガーシュイン
   ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタから第2楽章「ブルース」
   ガーシュイン(ハイフェッツ編):歌劇「ポギーとベス」より「サマータイム」
 4. 演奏家と作曲家--最も有名なヴァイオリンの名曲集
   サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28
   サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン Op.20 
 
プログラム概要
 17世紀から大バッハの亡くなる1750年頃までを「バロック音楽」と総称しますが、ヴァイオリンという楽器は17世紀後半に大体今の形に完成され、バロック音楽における花形として大活躍をしました。私が演奏している「ムンツ」も、1736年にイタリアで作られ、その後の時代の流れの中で小さな改良が加えられただけで、現在の4000人収容の大ホールでもマイクを使わない生の音で美しく鳴り響いています。楓と松で作られた小さな箱が、300年も変わらずに美しい音を響かせ続けているということは、まさに音響学的な奇跡といえる楽器です。
 一方、ピアノは、バロックの時代にはまだ存在しませんでした。当時の鍵盤楽器は、オルガンやチェンバロで、バロックの末期に今のピアノの前身にあたるものが幾つか発明され、以後改良が重ねられて、20世紀に入りやっと今の形になりました。現在のピアノはオーケストラの曲もピアノ一台で演奏できてしまうほど、音域も広く機能的な楽器です。
 
 今回のレクチャーコンサートは、「大作曲家たちの友情と反目」というタイトルで、19世紀から20世紀の初頭にかけての作曲家を中心に、彼らの人間関係やそのエピソード、音楽的な影響などを見ていきます。
 シューマン夫妻とブラームスは、音楽史上でも最も有名な友情関係の一つです。シューマンは家を訪ねてきたブラームスの天才を見抜き援助を惜しまず、一方ブラーム スもそのことでロベルト・シューマンに心から感謝し、数年後にロベルトが亡くなった後も尊敬し続けました。ロベルトの妻クララも天才ピアニストで、演奏活 動の他に幾つかの作品も残しています。ブラームスと恋愛関係にあったという説もありますが、いずれにしても音楽家としてお互いに理解し尊敬し、時々の不和 はあったものの、19世紀末に二人が亡くなるまで友情関係は続きました。
 18世紀までは、王や貴族の館、教会、オペラハウスに限定されていた演奏会でしたが、19世紀に入ると一般の市民を対象にした興行としてのコンサートが盛んになり ます。そこで「ヴィルトゥオーゾ」と呼ばれるスーパースター演奏家が登場します。パガニーニとリストは、その代表格。特にパガニーニはその悪魔的な風貌か ら、多くの伝説が生まれました。ヴァイオリンを歌わせるメロディーの美しさに加えて、その驚異的な超絶技巧は、リストを始めとした同時代の音楽家は勿論の こと、後世の作曲家たちにインスピレーションを与えました。
 1920年代に世界的に流行し始めたのがジャズ。「ボレロ」でよく知られているフランスの作曲家ラヴェルもジャズの要素を積極的に取り入れていて、1927年作のヴァイオリン・ソナタの第2楽章は「ブルース」。ブルースとは「ブルーノート」と呼ばれるジャズの独特の半音下げた音(音階の第3と第7音など下げる)を用い、独特の憂鬱な(ブルーな)色彩を演出します。1927年にアメリカ演奏旅行をしたラヴェルは、ニューヨークのカーネギーホール でガーシュインに会います。ガーシュインは既に「ラプソディー・イン・ブルー」でジャズの寵児になっていて、ラヴェルに伝統的な作曲法の教えを請います が、「一流のガーシュインになったのだから、二流のラヴェルになることはない」と断られます。その後ジャズも色々な方向に変化していきますが、この辺りの 歴史は複雑で、かつ興味の尽きないところでもあります。
 名オルガ二ストでもあったサンサーンスは、IQが高く、幼少期から大変な神童でした。スペインの名ヴァイオリニスト、サラサーテに依頼されて作曲した「序奏 とロンド・カプリチオーソ」はスペイン風のリズムが散りばめられた名曲です。サラサーテ自身が作曲した「ツィゴイネルワイゼン」は、人間の声に最も近いと 形容されるヴァイオリンの音色の多彩な魅力を余すところなく伝えています。
 

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このページは、Reiko Watanabeが2012年11月15日 18:44に書いたブログ記事です。

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