2012年10月アーカイブ

2012年10月9日 ヴィヴァルディの「四季」

 国際教養大学での今年のレクチャーも三週目の講義に入っています。途中、京都や仙台でコンサートがあったため勿論中断を挟みながらですが、最初の1〜2週は基本的な音楽の仕組みと音楽史の流れを大まかに掴み、その後にバロックの協奏曲の様式を具体的に見ていきました。今回はヴィヴァルディの「四季」のソネットと音楽の関係の分析です。

 ストーリーを伴った標題音楽の歴史的に最も早い、そして最も成功した例であるヴィヴァルディの4つのヴァイオリン協奏曲「四季」は、これらを含む12の協奏曲集(Op.8)が副題として「和声と創造の試み」としているように、ヴィヴァルディの創造力の一大宝庫と言えます。バロック時代に用いられたイタリアの「コンチェルト」の形式を用いながらも、かなり自由に独創的に構築されています。

 「春」は、四季の中では比較的スタンダードな形式に従っていると言えますが、ホ長調の持つオープンな輝かしさと、最初のオーケストラ主題でDominant(音階の第5音)に向かって突き抜ける旋律の力強い跳躍の繰り返しが春のエネルギーを感じさせます。続いて、鳥や風や小川の流れの描写、そして雷鳴を伴う稲妻の閃光のようなソロ・ヴァイオリンが、我々の耳をとらえて離しません。

 最もドラマティックなのは「夏」。第1楽章の冒頭から、一拍目の無い不安定な拍子をとり、夏の灼熱の太陽や激しい嵐を恐れる人々の不安な気持ちを表現します。3つの楽章を通してト短調という異例な設定、特に和声において多くのドラマティックな効果を用いています。一楽章の後半、「羊飼いの嘆き=The Countryman's lament」のところでは、「増4度=Tritone」という当時の音楽理論では使用を避けていた音程を何度も使用し、加えて半音階的下降、そして半音下げられた第2音(ナポリの6度)を散りばめ、嘆きの感情をドラマティックなまでに強調しています

 また、「夏」の一楽章最初のソロ・ヴァイオリンはカッコーの鳴き声を描写していますが、これは当時のヨーロッパでカッコーを不吉な鳥とみなし、カッコーを他の鳥に先立って聞くと、良くないことが起こるという迷信、これをなぞるように後から別の鳥が次々とさえずり、夏の終わり(第3楽章)に起こる大災難の予兆ともいえる設定になっているのです。

 以上、私のレクチャーの一部を紹介しました。「四季」に関する四時間の講義の全てを書くと長くなってしまいますので、このくらいにしておきます。

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